「・・・どこの闇金に手を出したの?とにかくすぐ売って、返せる分は返そう」

「まだあげてもいないのに売らないでよ」

「1日遅れるとその分利子が増えるでしょ?事は一刻を争うのよ!」

「自分のお金で買ったから心配しないで」

「あんたに『自分のお金』なんて高尚なものがあるはずないじゃない!」

「あるよー。大した額じゃないけど印税ってあるからね」

「だからって何無駄遣いしてるのよ!こんなもの買うより明日の米の心配したら?」

「米なんて売るほどあるから心配する必要ないって。この前賞にノミネートされたでしょ?」

「うん。落ちたやつでしょ?」

「落ちたけど、あの賞って人気あるからノミネートされただけで注目されるんだよね。他の作品とは比べるべくもないけど、ちょっとは売れたの。前の本も売れたし仕事も増えた。で、そのうち印税も入るだろうからこのくらい問題ない」

「このくらい」って言えるような指輪じゃないんですけど?

収入を見込んで高い買い物するなんて問題ないわけないけど、これは彼が〈本業〉で掴みとった指輪。
そう言われるとダイヤの大きさ以上に重い。

「芽実ちゃんに会えると思うと嬉しくて。顔を見た瞬間は最高に幸せで。だけど会ってしまうと思うんだよ。『ああ、また別れる時間が来るんだな』って。そう思うと一緒にいるのに気持ちが落ち込む」

「さすが、あんな本書いてるだけあって発想が暗いね」

「だからもうどこにも帰らないで、ずっと一緒にいて」

「・・・・・・」

「何が問題?」

「私でいいのかなあ?私、相変わらずトモ君の作品なんて一冊も読んでないんだけど。読んだってどうせ理解できないだろうし、孤独にだって寄り添うことはできないよ」

「本なんて関係ないよ。芽実ちゃんは僕自身と僕の人生に寄り添ってよ」

なるほどね。
じゃあ、後の問題はお金だ。
二人で働いて田んぼもやればなんとかなるかな?
今の職場も一応産休は取れるし、異動もしなくてよさそうだし。

貧乏だろうから子どもは一人しか無理かもしれないけど、仕方ない。

もし、トモ君が作家としてダメになったら工場勤務でもしてもらって、いざという時はこの指輪を売ろう。

とりあえず、トモ君と一緒にいる限り、明日の米の心配はしなくていいみたいだから。


この人と一生━━━━━悪くない。


「他に何を悩んでるの?」

「断る理由が思いつかなくて悩んでる」

「よかった!」

トモ君はキラッキラに笑う。
もう、まぶしい!!

「ああ、まともな人と結婚したかった・・・」

「マトモ?じゃあ、僕でちょうどいいじゃない」

「あんたのどこがまともなのよ!」

「だって僕、マシバトモハルだもん。〈マ・トモ〉でしょ?」

「そんなダジャレ嫌ああああっ!!」