論より証拠、ということで、私はテーブルを回り込んでトモ君の首に腕を回して抱きついた。

「疑うならキスしてみればいいじゃない」

「聞こえなかった」なんて絶対言えないように、耳に直接口を近づけて言った。

きっとトモ君は真っ赤な顔をして固まっているに違いない。
それが見たくて、そっと体を離して顔を見上げた。



トモ君は赤くもなっていなければ、固まってもいなかった。
攻撃的なまでに真剣な目をして私を見ている。


━━━━━へ?誰?

私が知ってるトモ君と全然違う。
まとう空気が執筆中の時みたいな深い色を帯びて、蜘蛛の糸のようにからみついてくる。

わわわわ!!
なんなんだ、その色気は!

瞬時に何かのスイッチを切り替えてきた。
大根を切ったと思ったら、桃の果汁があふれてきたみたい。
薄汚れてると思った無精ひげが、ワイルドな色気を醸し出して見える。

そんなトモ君に全く対応できていない私。

「芽実ちゃん」

少しかすれた優しい声で呼ばれれば、体の奥の自覚したことのない臓器までがゾクゾクと震える。
今までそんな臓器があるなんて感じたことなかった。
きっとごく最近できたに違いない。
新心臓と名付けよう。

ひいいいいい!!
ドキドキする!ドキドキするんですけど!バラン相手にドキドキする!!
心臓も新心臓も壊れそうなくらいバクバクいってる。

一人であわあわしているうちに視界に収まらないほどトモ君が近づいていたので、慌ててギュッと目をつぶった。


キスなんて、それこそ何百回何千回と経験している。
ファーストキスのドキドキも、技巧的な大人のキスも。

それなのに、なんなんだ!
触れられるより少し深く、噛みつかれるより優しく。
撫でられるような甘いキス。
少し吸われて、少し舐められて。


まるで「好き」って気持ちを、口移しで流し込まれているみたい。