勢いで押し掛けたのに部屋の電気はついていない。

失敗した。
朝帰り宣言を返上して、のこのこ戻るはめになりそうだ。

こういうことには勢いが肝心なのに、ご縁がなかったのだろうか。


未練がましくノックしてみる。
当然返事はない。

はあ、帰ろ。


背を向けたとき、中でガタガタと音が聞こえた。
再びドアに向き直ったのと、そのドアが開いたのは同時。

「━━━━━芽実ちゃん!?」

「あ、なんだ。いたの」

いつもの冴えない外見に加えて、今は無精ひげまでプラスされている。
ワイルドにはなっていない。
薄汚れただけだ。

「ど、どうして?」

「えーっと、立ち話もなんなので、とりあえずお邪魔するね」

勝手に部屋に入り込み電気をつける。

寝乱れた布団と、その周りに転がる一升瓶とコップ。
米どころは酒どころ。
なかなかいいお酒だ。

パソコンは閉じられていて仕事をしていた形跡はなし。
わかりやすくやさぐれていたようだ。


唯一の座布団を引っ張って私がテーブルの前に座ると、わたわたと周りを片づけてお茶を淹れてくれる。

「あ、これ美弥子さんから。お米の代金だって」

「ありがとう。このためだけにわざわざ?」

「そんなわけないでしょ」


これまでの蓄積のせいで、断腸の思いでひねり出した〈素直〉が霧散していく・・・。

仕方ないのでお茶を一口。

薄い!色つきのお湯だ!

文句を言いかけて、慌てて茶色いお湯で流し込む。

目的を忘れてはいけない。
空中に散らばった〈素直〉を必死でかき集め、無理矢理に笑顔を作った。
多少ひきつっていることは見て見ぬふりをしてほしい。