「あ、熱は下がった?」
そう言いながら近付いてきて
私のおでこに手のひらを当てる。
「良かった、、下がったみたいだね。」
距離が近い。体が触れられて。
ドキドキしてしまった。
会社の先輩なのに。
奥さんがいるのに。
旦那がいるのに。
木崎さんの手が
おでこから頭へ移動して
頭を撫でられた。
私は驚きと疑問のあまり
木崎さんを見つめてしまった。
「入社してから今まででね、忘れられないことが一つあって。一ノ瀬は覚えてないと思うけど。」
木崎さんが口を開いた。
「一ノ瀬が入社してきた初日。俺その日さ、初めて奥さんに裏切られたんだ。
馬鹿みたいに落ち込んでて。
うちの部署に新入社員が挨拶に来て、その中に一ノ瀬がいた。
あの時の自己紹介なんて言ったか覚えてる?」
「えっ、、緊張しすぎててそんなの覚えてないですよ、、」
「ははっ、そうだよな。
あの時、『失敗して落ち込んでもすぐに切り替えて成長の糧になると信じてひたすら前に進みます』
って言ってたんだよ。」
「、、なんかすごく恥ずかしい。」
「でも恥ずかしいことでもなんでもなくて、その時俺はひたすら落ち込んでたから。
なんで後輩がこんな考え持ててるのに
俺は落ち込んでばっかりいるんだろうって。
馬鹿馬鹿しく思えて、気持ちが軽くなった。」