「ちょ、花?急に走ったかと思えば、今度は急に固まったりして。一体どうしたわけ?」


「……ど、どうしよ。美和子ちゃん……頼くんが来てる」


「は!?マジ!?」


「……大マジ」



私の言葉に「あちゃー」と分かりやすく頭を抱える美和子ちゃん。


「ま、まだ私……匂いするかな?」


「ええ。動くたびに香ってますよ」


「……だ、よね」



いや、頼くんのことだから、私と涼くんの距離が縮んでることに「良かったじゃん」くらい言ってくれると思うんだ。

だって、恋のキューピットなわけだし。


だけど、頼くんを好きだと叫ぶ乙女心が、頼くん以外の人の匂いに染められてしまった自分なんかじゃ、会いたくないと言っている。


こんなことなら、使用禁止を命じられた自分の甘ったるい香水を付けて、頼くんに怒られた方がずーっとマシだと思うんだから私はおかしいのかもしれない。



「とにかく、今日は気配消すしかないね」


「……うん。大人しく部屋にいれば、会うことないよね?」


「大丈夫でしょ!航くんは部屋に来るかもだけど、五十嵐弟までは来ないだろうし」