「不意打ちじゃなかったらいいんだ?」


「だから、そういう意味じゃなくて……!」


「ブッ……ごめん、からかいすぎた」



ククッと喉を鳴らして笑う頼くんは、ポケットに手を入れてそのまま流れるような動作で自販機にお金を入れた。


「ジュース、買うんだろ」


そう言いながら、放置されたままだったスポーツドリンクを取り出した頼くんにキョトンとしてしまう。



「ほら、早くしないと金落ちてくるよ。俺、もう着替えないと時間やべーから行く」


「え……!ちょ、」


「その香水、禁止だから肝に命じること」


「頼くん!」




絶対に聞こえてるはずなのに、私の声に振り向くことなく更衣室の方へ歩いていく頼くんの後ろ姿。


その背中を見つめながら、ジンジン疼く胸を抑える。……どうしよう、最近……頼くんにドキドキしてしまう。


涼くんが、好きなのに……。


……あ、何だかんだまた"キスの理由"を聞けなかった。

お金が入ったままの自販機を見つめながら、表示されている500円という文字に今更目を見開く。


きっと、私のお金で買ったスポーツドリンク分を気にしてのことなんだろうなと思いつつも、


「……多いよ、バカ」



頼くんの優しさは、あとから気付くものばかり。
分かりにくいよ、頼くん。