「……バカ。そんな顔するなよな」


「え……っ、」

 
「何も言わなくていいから……」


「……、」



椎名くんはどこか様子が変だった。

短い期間だけど私が知ってる椎名くんは、恋愛小説に出てくる王子様のように洗練された容姿を持っていて。


けど、いきなり今みたいな言動をする人ではなかったと思う。



「今さら練習なんかしなくても、お前は大丈夫だよ」



音もなく離れていく距離は、なぜか、とても遠くに感じた。


舞い降りた沈黙と供にふと窓を見つめれば、いつの間にか外では雪が降っていたことに気づく。



「お前は、オレとは違うから……」



ぽつり、と……。

聞いている私まで苦しくなってしまう声で吐き出された言葉。


温度を持たない椎名くんの瞳は、儚げに降り続ける雪を映して、悲しく揺れていた。