なんでこんなところにいるんだ。
渡本人の通院だろうか?いや、それなら近所の病院で済むんじゃなかろうか。
それなら、お見舞い?家族や友人が入院しているとか?
このあたりは、駅名からも渡の実家の近くだと思う。

思わぬところで友人を見た驚きと、それが渡であることへの好奇心。
そう、ちょっとした好奇心だった。

渡に対して優位に立とうと思ったわけではない。
しかし、渡の奇妙な行動の謎がかけらでもわかるかもしれない。
渡が凶行に及んだ理由がそれでわかるなら……。僕には「知る権利」があるはずだ。

僕は友人たちに向き直り、言った。

「ごめん、病室に忘れ物したかも」

「え?待っててやるから取って来いよ。まだ見舞客用の通行証返してないし」

「あー、先帰ってて。トイレも寄りたいしさ」

友人たちには先に帰ってもらった。
僕は見つからないように足音を忍ばせ、渡を追う。
ロビーはともかく、階段は人気がなく、僕は渡の足音を頼りにこそこそ上階へ登った。

階段は踊り場の窓からの日差しのせいか、冷房があまり効かず暑かった。
結構登ったけれど、渡は歩みを止めない。
エレベーターを使えばいいのに。そう思いながら黙々と足を持ち上げ続けた。

たっぷり距離をおいて7階に到着すると、急いで壁に張り付く。
廊下を見渡し、渡が入ったのが突き当たり右の病室であることを確認した。そっと近付く。