それからどこをどうしたのか。

大通りでタクシーを拾ったのは覚えている。
搬送されたという救急病院の名前を告げ、錯乱気味の頭で祈った。どうかどうか間違いであってくれ。どうかどうか。

震える指で履歴を押し、渡の番号にかける。
留守電につながり切ると、またすぐにかけなおす。ずっと携帯を鳴らし続けた。
早く出てくれ、渡。そして僕の馬鹿な勘違いを笑ってくれ。

タクシーの運転手が呑気な口調で、どうしたのお兄さん、と問うてくる。僕は「友達が」と言ったきり涙が出てしまって、携帯を握り締めてぶるぶる震えた。怖くて、怖くて、涙腺がおかしくなっていた。
運転手は悪いことを聞いたとばかりに前に向き直ったが、猛スピードで僕を病院まで運んでくれた。

受付に駆け寄って矢継ぎ早に口を動かした。
さっき運ばれてきた男の部屋を教えてください。僕の友人なんです。早く。頼むから、早く遠坂渡の病室を教えてくれ。

僕が教えられ向かったのは、別棟一階、隅の部屋だった。

長い廊下の先、救急処置室と書かれた開け放たれた空間を抜け、僕が入ったのはさらに奥の薄暗い部屋。

その部屋で、渡は取り澄ました顔をして眠っていた。
静かに、静かに眠っていた。

そして僕は、彼の心臓が一時間ほど前に止まったことを聞かされた。