久方は自習時間の終わりに来て、一花に小さなメモを置いて行った。

―裏で待ってな


その言葉どおり、少し狭い通路の裏口で一花は待った。

「こっち」

と、久方に案内された先は、おそらく久方のだろう、車だった。


「乗って」

その言葉に素直に従う一花。
(先生の車だー。ドキドキする)


「あのねー、一花さん、男に車に乗れって言われてもそんなひょこひょこ乗っちゃダメでしょう」

「だって、先生の車だもんって」

「あ、今一花って言った!」

一花の心はドキドキでいっぱいになりよくわからなくなっていた。



そんなやり取りの末、2人は街中を抜け、海岸通りをドライブしている。

「門限何時なの?」

「ないよ。うち自主性にまかされているから。だから浪人もできたんだ」

「しいて言えば12時かな。友達と勉強しててもそのあたりで切り上げるから」


久方は時計を見つつ、ふむふむとうなづく。

そして、車の停めれそうな場所を見つけると、エンジンを切った。


「で、さっき何て言ったお前……」


「先生が好き」



はーっと長い溜息のあとで久方は言う。

「俺は先生、君は予備校の大事な生徒さん。別に高校や中学校ではないから恋愛をしては絶対ダメってわけではないけどね。予備校の禁止事項なんですよ。」


「恋愛にうつつを抜かすより、勉強しましょう」


「というわけで終わり!帰るぞ」


「でも好き」

間髪入れずに一花が言う。

「先生のために、もっと勉強頑張る」


「合格したらまじめにきいて」