そう、何で気付かなかったのだろう。

お守りってそういうもんじゃないから、一花はお守りの中に入った久方のメッセージに合格発表直前まで気付かなかった。

”さくら咲け”
受験の成功を願う定番文句、

そして、

”俺だけのために咲いてください”

小さい文字で、先生のフルネーム。



ー先生!




そして晴れて、全ての試験が終わって、めでたく私の春は咲いた。

それはつまり、4年間この地を離れることでもあった。

先生と離れることであった。


「先生、浮気しないでね」

「大丈夫だよ。一花さんを大事に思っていますから」


「どうして私を選んでくれたの」

「秘密」

一花はなんだか納得いかなかったのだが、先生が私に応えてくれた、それだけでも奇跡なのだろうと思った。



「待ってるよ」

「行ってきます、先生」


「うーん、先生っていうのも、もうやめてくれないかな、実際一花の先生は終わったんだし」

「蓮って呼んで」


(ひゃー、いきなり難度高いよ。今までは先生だから先生だったんだし)


「……れん」


「ちぃーっこい声」

笑い声とともに、一花は久方に抱きすくめられた。

「きゃぁ」
一花はドキドキして心臓の音がバクバクしていた。

そんな一花を見る久方の目はうるんでいた。


「一花さん、カテキョとかやって、カッコいい男子高校生に惚れられるんじゃありませんよ」

「そんな、先生こそ。私みたいなのに捕まらないでね」


その言葉を聞くと、久方は黙ってしまった。



「そんなふうに言うなよ」


「せんせ……じゃなくて」


「いいよ、慣れるまで先生でも」


「俺は一花に救われたんだ。胸を打たれたよ。気付いたら胸の中に一花さんだらけになっててさぁ、もう困ったね」

茶化しながら自分の思いを告げる。


抱いていた腕をはなして、一花に向き合う。


「改めて」


「俺のために咲いてください」


「はい」




「当日、見送りに行けないから今日でな」

私はもっと一緒にいたいのに、そんな顔をしていたのだろう。

「そんな顔するなよ」

「遊びに行くよ」



先生は私にたくさんの言葉をくれた。


そして、「手をにぎってごらん」と両手を優しく包み込んでくれた。


「これは一花のことが大好きで一生懸命汗をかいた手だよ」

2人でくすくす笑いながら、以前一花を励ましてくれた言葉を思いだした。


緊張しながら、一花も言葉を返す。


「先生、あのね、大好きだよ!」


こうして2人の春は始まりました。