この金魚すくいの店主はわざと客を煽って、すくえる筈もない金魚を客に大枚払わせて挑戦させていたのだ。
そんな店のカラクリに気付いたものの、今更あとには退けない祭だった。
「オヤジっ!次の網だ!」
脇で見ていたあゆみの顔が、みるみる不安そうになっていく。
「パパ…もういいよ…おうちに帰ろう」
「もうちょっと待っててねあゆちゃん♪必ずすくってあげるから♪」
そんな言葉をあゆみに掛けるが、その祭の表情は明らかに不安に満ちていた。
そして…一時間後…
予想通り、祭は一匹の金魚もすくえないまま、先程払った一万円分の網を使い切ってしまった。
「ごめんな…あゆちゃん…お父さん、金魚すくえなかったよ…」
「ううん…パパ気にしないで…」
こうして、二人の夏祭りは終わった。
あれほど楽しかった夏祭りが、一軒の金魚すくいの為に台無しになってしまったのだ。
喧騒な夏祭りの人波と行き交い家路に帰る祭親子の背中は、ひどく寂しそうだった。
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