…元太はいない。

今年の、バレンタインデーには。
いない。

こんな確かめ方しかできない自分が、ちっぽけに思える。

ひとつ、穴が埋まる。
それが、実感へと姿を変える。



元太はいなくなる。
これから。



「あげれないもん。しょーがないじゃん」

ああ…ダメだ。
泣きそうだ…。



鼻の奥がツンとする。
サオの手に力が入り、あたしは視線をサオへと移した。

サオは寒さで鼻を赤らめ、何も言わず、あたしを見つめている。

サオはゆっくりと小さく頭を振り、そして、微笑んだ。



…あぁ、そうか。
別れの言葉を、言わなきゃならない。



「ショウ!」

「はい!」

サオが急に叫ぶと、翔くんは慌てて返事をする。
あたしも、その声に驚いてサオを見つめた。

「ゲンタ? あたし、あんたとおれて楽しかったわ」

サオはニッコリ笑った。

「元気でな?」

そう言うと、サオは翔くんの服をガッシリ掴んで、戸惑い気味の翔くんとスタスタと歩き出した。

「え。…なんかね? あいつら」

そんな2人を見て、元太はクックと笑った。