「…怖いの。泣いたら全部、いつか忘れちゃいそうで」

「泣いたぐらいで忘れせん」

ガーっと元太があたしの頭を撫でた。
ボサボサになった髪が、ハラリと落ちる。

ぶっと元太が吹き出した。

「なにお前、その顔」

あたしは前を向き直した。
なぜか元太の顔が、見えなくなったから。

「…そんなこと…ないもん」

夕焼け空が、赤い。
…赤かった。



「忘れせんけん。泣いたれ」



胸に詰まってた思いが…。



しゃくりながらとか、震えながらとか、そんなんじゃない。
ただ、視界が歪んだかと思ったら、ぽたりと膝の上に落ちた。

なんの抵抗もなく、涙は静かに落ちたんだ。



元太だ。
ここにいるのは元太。
君じゃない。
初めから君は、ここにいなかった。

認めたくなかった。
信じたくなかった。

まだ、君の隣にいたかったから。

でもね。
今ここに、いてほしいと思うのは君じゃない。

君じゃない、元太なんだよ。

君じゃない。
元太…。