桐原さんはすぐに戻ってきた。手には少し厚みのある袋を持っている。
それを受け取った店長が、私を見てニヤリと笑った。
「そう、クリスマスにとって絶対に欠かせないもの。それは世界中の子供に夢と希望を運んでくる存在…」
店長が袋の中からモノを出す。赤と白のそれに、私は物凄く見覚えがあった。
「サンタクロースさ!
明里ちゃんにはクリスマス当日、これを着て呼び込みをしてもらいまーす!」
マジですかーーー!!!
「嫌です」
私は丁重にお断りをした。
「なぜ!」
「嫌ですよいい歳してそんなの着るの!」
「いい歳とは何だ!本物のサンタクロースは大体おじさんじゃないか!」
「じゃなくて、いい歳してコスプレとか嫌ですって言ってるんです」
ぐ、と店長が言葉に詰まった。うぬぬぬ、と渋い顔をする。
「悲しいねぇ…サンタの恰好をコスプレなんて言われちゃぁ…」
それから店長は、かつて自分が見習いのシェフだった頃、先輩シェフに言われサンタクロースの恰好をして呼び込みをしたこと、はじめは嫌々だったが、子供に『サンタさん美味しいケーキをありがとう』などと言われ感動したことなどを熱く語ってきた。
延々とそんな思い出話を涙ながらに語られついに観念した私…
「わ、分かりましたよ。やればいいんでしょ、やれば!」
半ばヤケクソで引き受けた。
頭の片隅で、まぁ一人でいるよりは、少しは桐原さんとお姉ちゃんのこと考えなくて済むかもな、なんてことも思ったりもした。