それから数日後の夜のこと。
珍しく桐原さんから電話がきた!と思ったら『ミルフィーユ緊急招集』の連絡だった。なんでも店長がお呼びだそうだ。
というわけで私はクリスマスを二週間と数日後に控えた土曜日、閉店後のミルフィーユへやってきていた。
「今日君たちに集まってもらったのは他でもない」
カウンターの中で腕組をした店長が重々しい口調で話し始める。店長の隣には気だるげに壁に寄り掛かった桐原さん、そしてカウンター席には私とお姉ちゃんが並んで座っている。
「この例の作戦についてだ!」
バンッと後ろの壁にかけてあるホワイトボードを叩く店長。
そこにはデカデカとした字で『クリスマス☆荒稼ぎ☆大作戦!!』と書かれている。
…ちょっとどこからどう突っ込んでいいか分からない。
この困惑と戸惑いとドン引きに満ちた空気に気付かない店長がシリアスな口調で話を進める。
「ケーキ屋にとってクリスマスというのは一番の稼ぎ時だが…特に今年のクリスマスは、うちにとっては別格のチャンスだ!なんせ今年はイケメンパティシエ、キララ王子がいる!!」
ビシッと桐原さんを指さす店長。眉間に深い皺を刻む桐原さん。
「そして美人ウエイター、栞里ちゃんもいる!」
今度はビシッとお姉ちゃんを指さす店長。ニコ、と笑みを返すお姉ちゃん。
「しかもクリスマスケーキに関しても今年は特に力を入れている。キララくん特製のピスタチオとチョコレートのクリスマスケーキ!見た目も味も完璧!今年はコレを売りに売って売りまくろう!!」
おー!!と拳を突き上げた店長の声が閉店後の店内に響いた。