お礼を言うと、牛奥は照れ臭そうに笑った。
「おし、じゃぁ25日の19時、駅前広場のツリーの前で待ってるわ!」
「いや行かないけど」
「何でだよ!」
牛奥が吠える。莉央がそんな牛奥を鼻で笑う。
居酒屋の火照った熱気が心地よくて、私は久しぶりに心から笑った。
だけど。
「きぃくん、クリスマスケーキ何にするかやっと決めたみたいよ」
帰宅後、お風呂から上がって寛いでいたお姉ちゃんから飛び出たそんな何気ない言葉に、ス、と体に残っていた熱気が冷めていくのが分かった。
「…え?」
「だからクリスマスケーキ。ずっと悩んでたでしょ?やっと決まったって、今日報告してくれたの」
持っていたミネラルウォーターのペットボトルを落としそうになって、慌ててシンクに置く。
「そ、そうなんだ」
「うん、試作品見たんだけどすっごく美味しそうだったよ。生地はピスタチオの…」
「…相談とかも、されてたの?クリスマスケーキの」
「相談っていうか、悩んでるっていうのは聞いてたけど?色々アドバイスしたかったけど、私ケーキのことなんて素人だし、何にもアイディア出せなくてさ」
「そ、そっか」
さっきまで居酒屋で呑気に飲んでいた時のことが遠く遠く感じる。
ショックだった。
…お姉ちゃんにも相談していたこと。クリスマスケーキが出来上がった報告を、私より先にお姉ちゃんにしたこと。
2人は今一緒に働いているんだし、自然な流れなのかもしれないけど。頭ではそう分かっていても、どうしても思わずにはいられない。
一番は、私がよかった、なんて。