「フーン、眠りの森の琶子から榊原邸の琶子になっちゃったんだ」

裕樹は図書室で寛ぐ二人をからかう。

「で、お前たちは、また何で来たんだ!」

今日は則武と裕樹に加え、桔梗の姿もあった。

「陣中見舞い?」
「則武、答えが何故疑問形なんだ。もう、どうでもいい、帰れ!」

清とて琶子と二人切りになるのは久々だった。
だが、そんな清とは裏腹に、琶子は久々に会えた桔梗と盛り上がっていた。

「スゴイ! 世界の奏カナのなの。よく見せて! 本当に素敵ね」

目ざとく琶子の指輪を見つけ、それが奏カナのデザインと聞くや否や、桔梗は狂喜乱舞した。

ウットリ眺める桔梗に、則武が不安気に声を掛ける。

「お前も奏カナのが良かったのか?」

婚姻届だけ先に出してしまった則武は、まだ、桔梗に婚約指輪も結婚指輪も渡していなかった。現在作成中だが、それは奏カナではない、別の著名ジュエリーデザイナーのものだ。

「おバカさんね。これはこれよ。私は貴方が作ってくれているものがいいの」

桔梗の言葉にホッする則武だが、その直後の言葉にガクリと項垂れる。

「でも、流石、榊原さんね。復帰は絶対ない、と引退した奏カナに作らせるなんて! そこいらの愛とは比べ物にならないわね」