そう、あの日、ポイッと貰ったのがこの指輪だ。
琶子は左手の薬指をソッと右手で撫でる。

あの後、食事に行った。
厳重にセキュリティ対策されたV.I.P.専用の駐車場からエレベーターに乗り、一般客が入れない階の個室に入った。床の間のある立派な和室だった。

「この店は『三つ巴』の支店の一つだ」

三つ巴は、グルメ雑誌でもよく紹介される有名な老舗の高級和食店だ。

「お初にお目にかかります。わたくし、三つ巴の代表取締役社長をしております巴成之助と申します。そして、こちらは、わたくしの妻であり、女将でもある光江です。以後、お見知りおきを」

丁寧な挨拶の後、光江から大きなバラの花束を渡され、琶子は驚いた。

「ご婚約おめでとうございます。わたくしどもからの、ほんの気持ちです」

扇氏にしても、巴ご夫妻にしても、内情を事前に知らさせていたようだ。
琶子が前に座る清に目をやると、素知らぬ顔で成之助と話していた清がチラリとこちらを見た。その顔に一瞬、策士の笑みが浮かぶ。

まったく、この男!

「ここの料理は、味は勿論、フランス料理にも劣らぬ芸術的な料理だ。和食好きのお前のために、今日は最高級のものを用意してもらった」

清の言葉通り、順に運ばれてくる料理は美しく美味だった。
彼は車だったので飲まなかったが、料理に合わせマリアージュされたワインも美味しかった。

ワインのせいだったのかも?
あれよあれよと進んでいく清の書いた筋書きを、陽気に楽しく、寛大な心で許せたのは……。