夕飯も済み、片付けの済んだキッチンには、もう、登真理と薫の姿しかない。
「さてと、お節の準備もだいたいできたわね。明日、だし巻き卵と蒲鉾の飾り切りを作って、お重に詰めて完成」
「今年もご苦労様。例年以上の力の入れようだったわね」
登麻里が薫に労いの言葉をかける。
三十日も後二十分ほどで終わる。疲労の色は見えるが、ランナーズハイ状態の薫と登麻里は、睡眠より、大晦日前夜祭だ、とばかりにワイングラスを傾ける。
「桔梗も桃花も今年が最後だからね」
「そうね、次男坊でも高徳寺家の嫁だし、やっぱりご実家にお客様とかたくさんいらして、年末年始はきっと忙しいでしょうしね」
グラスを揺らしながら登麻里がポツリと呟く。
「寂しくなるわね」
「やだ、やめてよ、改めて言うのは」
薫の瞳に涙が浮かぶ。
「私、年末年始をこんな風に過ごすの、ここに来て初めてだったわ。本物の家族じゃなかったけど、本物より本物だった。楽しかった」
「ちょっと、貴女までいなくなるみたいなこと言わないで!」
薫が登麻里の背中をポンと叩く。
「居ていいのかしら? ズットここに」
「ああ、居て欲しい。そして、できれば皆の母親代わりでいて欲しい」
突然乱入してきた声に、登麻里と薫が振り向く。