「普通っていうのは、初詣もバーゲンも、列に並び、人込みに押され、もみくちゃにされることじゃないの?」
則武の言葉に、清が不思議そうな顔をする。
「そんなことをするつもりはない」
「ハーァ?」全員の合唱がキッチンに響く。
「まさかお前、神社も店も貸し切りにしようってんじゃないだろうな。あっ、ついてに本屋も」
「そのまさかだが。何か文句があるか?」
薫がお手上げのポーズを取る。
「こんなこと言っているよ。琶子、言ってやんなさい、このお方に、そんなのは望んでいないと」
琶子は驚き過ぎて言葉も出ないようだ。湯呑の緑茶をグイッと飲み、息を整えるとハッキリ言う。
「榊原さんは何もしないで下さい。今回は私が榊原さんをエスコートします」
「女にリードされるのは不本意だ」
清の言葉に、則武が言う。
「琶子ちゃんプロデュースのデートだよ。この先、一生ないかもよ」
フムと考え、それもそうだ、と思い直す。
「分かった。今回は、お前の言う通りにしよう」
清はすっかり気に入った肉団子を口に放り込むと、モグモグ租借しながら、しかし、普通の、とはどんなだろうと少し楽しくなる。
琶子は則武に、ありがとう、と目配せする。