時間が経つほどに、キッチンに美味な香りが増え、笑みが増えていく。

心の底から、温かい、と清は思った。そして、ここを離れ難い桃花の気持ちが、清にも少し分かった。

「薫ちゃん、味見していい?」
「桃花、貴女、さっきからそればっかり」

ヤレヤレと言いながらも薫は、ホラ、アーン、とその口に錦卵を入れる。
モグモグと口を動かし、「美味しい!」と桃花は小躍りする。

「お前って菓子だけじゃないんだな。うん、なかなか美味い」

清も桃花の横でモグモグと口を動かす。
則武も桃花の隣から手を伸ばすが、その手をパチリと薫に払われる。

「則武さん、いつの間に来たの?」

桔梗が則武をメッと睨む。

「ちょっと、大人が何しいてるの! 食べちゃったらお正月の分なくなっちゃうじゃない」

腰に手を当て仁王立ちし、薫は清と則武を睨む。

則武は、まぁまぁ、と言いながら、桔梗の方を見ながら、壁の掛け時計を指差す。

「時間通りだろ。もう六時だ」
「エッ、もう、六時!」

嘘みたい、と薫は時計を確認し、「イヤだ、そりゃあ、お腹も空く筈だわ。夕飯の準備、すぐするわね」と慌てて土鍋を取り出す。

「今夜は寄せ鍋よ。登麻里先生、材料は冷蔵庫に揃っているから取り出して」

登麻里は作り終えた紅白なますをタッパーに詰め、冷蔵庫に入れると、「了解」と肉や野菜を取り出す。

「じゃあ、俺と清は肉団子を作ろう!」

則武が腕まくりし、手を洗う。登麻里が怪訝な表情になる。

「あらっ、出掛けるんじゃなかったの? 桃花のことは心配しなくていいのよ」

「いや、デートは中止。生憎、雨が降って来た。霙だ。コイツを正月早々、風邪引きにしたくない」

則武が桔梗の頬にキスをする。

暗い窓の外、時折、ガラス窓にパラパラと雪混じりの水滴が叩き付けられる。

「あー、なるほど、風も強そうね。これじゃあ、出て行くより、ポカポカのお部屋で鍋を突いていた方がいいわね」

登麻里が納得気に頷く。