「フーン、ママもだよ。琶子も眠りの森から出て行くの?」
「ああ、俺と暮らす」

そっかー、と桃花は項垂れる。複雑な表情で桔梗は桃花を見る。清は卵を割りながら、素っ気なく聞く。

「なんだ、出て行きたくないのか?」
「うん、ここには登麻里ちゃんも薫もいるもん……琶子はいなくなるけど……」
「なるほど、しかし、父親と暮らせるのだぞ」

桃花は複雑な面持ちで、手に持つ蓮根を見つめる。

「お前は賢い奴だと思っていたが、案外、馬鹿だったのだな」

子供相手に何を言う! と琶子、登真理、薫、桔梗は清を睨む。

「よく聞け。人間は時に、二つに一つ、どちらか選ばねばならないことがある。瞬時に選ばねば、手から滑り抜け、二つとも失うこともある。お前は二つとも失いたいのか?」

その言葉に、四人の目尻が下がる。

琶子は、やっぱり親子だ、と桃花と対等に接する清の姿勢に風子の姿と重なり、胸が熱くなる。

桃花はジッと考える。

桔梗は心配ながらも、ねじり梅を作る手を休めることなく、桃花の返事を待つ。

「榊原さん、桃花、バカじゃないよ」

ねじり梅が五個できた時、桃花が口を開く。

「パパと暮らす。で、眠りの森には遊びに来る。遊びに来るのはいいんでしょう?」

その返事に、清は満足そうに頷く。

「ああ、いつでも来ればいい」

桔梗の目に涙が浮かぶ。桃花の意志を無視してここを去るのは心苦しかった。だが、納得さす言葉がなかなか浮かばず、ズルズル日だけが過ぎていた。

「榊原さん、ありがとう」

桔梗がソッと呟く。