「俺は、一銭にもならない嘘は言わない」

「フーン」と薫の眼が光る。

「ここで年越しする……というならば」

荷物を自室に置いた清がキッチンに戻って来ると、薫はニシャリと笑い「お手伝い願わねば」と椅子に座った清の前に、ドンと卵の入った大きなボールと、空のボールを置く。

「割って」
「何故だ」

肉団子に次ぐ第二弾だ。察しのいい清は、言いなりになるものか、と与えられたミッションに反発するように薫を睨む。薫は「それがここの年越しだから」と睨み返す。

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょう!」

睨み合う清と薫の間に、琶子が割って入る。

「榊原さん、貴方、こんなところで何しているんですか! 恐ろしい数の年越し、及び、ニューイヤー・パーティーのお誘いがきてましたよね」

「前にも言ったが、出る必要なしだ。だから……卵を割る」

追い返されてなるものか、と清は早速卵を手に取ると、起用に片手で割っていく。

「フン、なかなか使えるじゃない」

文句を言いながらも、楽しそうに卵を割る榊原を、薫は可笑しそうに見つめる。

「ねぇ、おじちゃん、琶子と結婚するの?」
「おじちゃんではない。榊原さんだ。ああ、するぞ」

桃花の突然の質問に、清は躊躇なく答える。

「ちょっちょっと、榊原さん、何を言っているのですか!」

琶子が真っ赤になる。聞き耳を立てる住人達。