「それにしても、こんなに美しい女性を今まで知らなかったとは。僕もまだまだだな。ねぇ、踊らない? 行こうよ!」

「嗚呼、まだまだだ! だからその手を退けろ!」

怪傑ゾロが琶子の手を取った途端、上から冷血な声が聞こえた。

「ウワッ、清! じゃなかった、ルートヴィヒ2世!」

怪傑ゾロはビクンと震え、バッと立ち上がり、直立不動でピキンと固まる。

「俺の連れだ。勝手な真似をしてもらっては困る」

清の冷々な眼が怪傑ゾロをギロリと睨む。

「それから、お前! こういう輩は毅然と跳ね除けろ!」

清は琶子にも文句を言い出し、文句は説教に変わる。
その隙に怪傑ゾロは、その場を逃げ出した。

「貴婦人は男の言いなりにはならない。見ず知らずの男が声を掛けてきたら無視しろ! 笑顔も見せるな! 手を握らすなど言語道断だ! お前は武術を取得する必要があるな。合気道でも習わすか」

最後の言葉は琶子に言ったのではなく、独り言のようだが……。