琶子は生オーケストラの優雅な調べを聞きながら、清のエスコートに従い、絢爛華麗な人々の間を奥へと進んで行く。

フト気付くと、いつの間にか則武の姿も裕樹の姿も、人々の間に紛れ見えなくなっていた。

「いささか心配だが……」

琶子をロココ調のアンティークカウチソファーに座らすと、清は「ここで少し待て」と言って、黒山の人だかりに姿を消す。

その人だかりの中央に、恰幅の良い見たことのある姿が見えた。
市之助氏? 彼は誰に扮しているか分からないが、司祭の姿で絶大なオーラを放っていた。

「美しきマリー・アントワネット!」

突然、頭上から声がし、ん? と琶子は声の方を見る。
怪傑ゾロ? 裕樹が言っていたレン……という人だ、と琶子は思い出す。

「横、いいですか?」

ゾロは琶子の返事も聞かず腰を下ろす。

「君、こういうパーティー初めて?」

図々しく話し掛けるゾロに、はい、と小さく答える琶子。
掴みOKとばかりに、怪傑ゾロは不躾にも、いろいろ質問をし出す。

「榊原清と一緒だったろ? 彼とはどういう関係?」

琶子が困り顔で下を向いていると、ゾロは調子に乗って更に突っ込む。

「恋人? 付き合っているの? もしそうなら止めた方がいいよ。市之助氏に潰されるよ。あっ、代わりに僕と付き合わない? 僕、これでも売れっ子有名人だよ」

ゾロがマスクを少しずらし素顔を見せる。
どこかで見たことある顔だ、と琶子は少し考える。

レン……ああ、と思い出す。大友蓮だ。ミルキーアイスの箱。そこにプリントされている顔だ。

あのアイスはちょっと甘くどかったなっ、と顔をしかめる。