ファーストキス……。
乙女たちはその時を! そのシチュエーションを! 夢見、心躍らす。

琶子とて例外ではない。
ロマンティックな場所で王子のような人と……と考え、アレッ? と疑問符が浮かぶ。

ここは豪華客船『クイーン・ダイヤモンド』の中。かなりロマティックな場所だ。目の前にいる清は絵に描いたように美しく、物語の王子そのものだ。

アラッ? 理想そのもの! 琶子は一瞬そう思い、イヤイヤと頭を振り、違う! と邪念を追い払う。そして、清にも自分にも言い聞かせるように異議を唱える。

「キスって好き同士がするものです! 好きでもない人が、好きでもない人に、キスなんてしちゃいけないと思います!」

清がフンと鼻を鳴らす。

「まだまだネンネだな。まっ、それも可愛いが……」

清の眼が妖しく光る。

「言っておこう。俺はどうもお前を好んでいるようだ。お前が言う『好き』には到達していないが……たぶん、もうすぐだろう。だから、お前も早く俺を好きになれ!」