そして、ミーヤに続き出てきたのは……。

「ウワッ! マリー・アントワネット!」
「まさに! マリー・アントワネット!」

裕樹と則武が声を揃え、叫び声に近い感嘆の声を上げる。
清はここでも無言だが、その瞳は大きく見開かれ、熱っぽく琶子を見つめる。

琶子は高く上に盛ったシルバーのカツラをつけ、豪華な刺繍とレースで彩られたシャンパンゴールド色のロココ調ドレスを身に着けていた。そして、普段、全く化粧気のない顔には、シッカリとメークが施されていた。

「近年にない最高の仕上がりですわ!」

満足気なミーヤ……とは対照的に、琶子の表情は苦虫を噛み潰したようだ。

「……この格好で、どれだけ過ごさなきゃいけないの……ですか?」
「何ブーたれているの? 極上の美しさなのに」

則武は琶子の周りを廻りながら、ウンウンと頷き、これほどとは、と感心する。

「そうだね、三時間ぐらいかな……本当、スッゴク綺麗可愛い!」

甘い微笑を浮かべる裕樹の言葉に、琶子は「ハイ?」と声を張り上げる。

「三時間もこの格好でいるんですか!」

琶子に裕樹の誉め言葉は届いていないらしい。
食い付くのはそこか、と清は笑いを堪え、ようやく口を開く。

「最低三時間だ……たぶん、祖父のことだ、三時間では済まないだろう」

「うそ、私に死ね、と言っているのですか? 苦しくて息もまともにできません!」

琶子は涙目で清に訴える。

「帰っていいですか?」
「お前は馬鹿か! 今日の主役は君だ」
「ハァ?」

琶子はアングリと口を開ける。
そして、誰か夢だと言って、と辺りを見回すが、それは徒労に終わる。