「いらっしゃいませ」

ブラックドレスに身を包んだ、スレンダーなマダムが綺麗なお辞儀をする。
年齢不詳の魅惑的なフェース。悩ましいほどしなやかな動き。
美形は見慣れている筈だが、琶子はその妖艶で妖しげな魅力に目を奪われる。

「こちらのお嬢様ね」

琶子の前に立ったマダムが清を見る。

「ああ、琶子だ。よろしく頼む」

「初めまして琶子様。トータルビューティーサロン『エメラルド・キャット』のオーナー、ミーヤ・猫田と申します」

ミーヤは胸元から名刺を一枚取り出し、琶子に手渡す。

仄かに香るゲランの夜間飛行。
大人がつける知的でユニークな香りが、琶子には、ミーヤの内を代弁しているかのように思えた。

「琶子様には、手ずからエステを施術させて頂きます。まずはバラ風呂にお入り下さい。どうぞあちらに」

ミーヤは、有無も言わさぬ威圧的な態度で、琶子を奥へと導く。
二人の姿が目の前から消えると、則武が裕樹に耳打ちする。

「俺さぁ、あのマダムだけは絶対に口説けない。魔女の呪いを受けそうでさ」
「それ、分かる! 僕なんか、あの方と目が合わせられないもん……」

則武と裕樹は、二人が消えたドアを見つめながらブルッと身震いする。