車中は賑やかだった。則武と裕樹は琶子を気遣い……イヤ! 琶子の日常を探ろうと熱心に話し掛けてきた。

則武は、少しでも琶子の情報を得ようと、必死だ。

琶子は不思議でしょうがなかった。市之助氏にしろ、彼等にしろ、どうして他人のプライベートがそんなに気になるのだろうと。でも、今は、それ以上に気になることがあった。

「ところで、この車はどこへ向かっているのでしょう?」

どう考えても榊原邸への道ではない。

「パーティー会場」

ストレートな清の言葉に、琶子はそのまんま言い返す。

「ハイ? パーティー?」

何のことやら、と琶子が首を傾げていると、則武がゲラゲラ笑い出した。

「全く、あの爺さんの考えることといったら……」
「ウン! 奇想天外摩訶不思議なことが多いね」

裕樹もクスクス笑いながら、ウンウンと同意する。

「人前に出る練習だとはいえ、マスカレードって、やることがイチイチ大袈裟なんだよ」

則武の言葉に、更にハテナマークが増える琶子。

「マスカレード……仮面舞踏会?」

そこでようやく清が、「ああ」と口を開き、苦々しく顔を歪める。

則武の説明によると、一週間前、KTG出版のイベント話を小耳に挟んだ市之助は、予定ゲストが琶子と聞くや否や、即座に、このパーティーを計画したそうだ。

「イベントは大勢の前に出なくてはいけない。引き篭もりだった琶子にはハードルが高過ぎる。ならば、それに慣らすため、パーティーを開こう! そうだ! マスカレードだ! 仮面さえ被れば別人だ。誰だか分からん。琶子も緊張しないだろう」

グッドアイディアだとばかり、市之助は早速行動を開始した。
清の意見も聞かず。

ああ、だからこの一週間、市之助氏から電話がなかったんだ。
謎が解けた、とばかりに琶子は納得をするが……。