「涼香? 何が言いたいの?」

「ねぇ、碧人。試してみたい事があるんだけど、いいかな」

「好きにすれば」


碧人に目を向けると、既に碧人は私が考えている事を予知しているかのような表情を浮かべていた。


私は、碧人の持っていたチョークと私の持っていたチョークを黒板にあてる。

どうなるかは分からない。

分からないけれど、試してみる価値はある。


だって。

10年後のレイは、私を覚えていてくれた。

忘れてしまうであろう、私という人間と関係を持っていた記憶が消えずに、レイと私の思い出として記憶に残っていたのだから。


妖精界の決まりを、きっと私が変えたはずなのだ。


ならば、私ができることはひとつ。

新しいキセキを起こすこと。


蒼人は、もうチョークは要らないと言ったけど。

私には、もうひとつ叶えたい願い事が出来たから。


【たとえチョークを使いきってしまっても、私の記憶は消える事はない。

妖精は何度眠りについても、関わりをもった人間の事を覚えている】


黒板に書き留める。

七色に輝くチョークで描かれた願い事は、眩い光を放ちながら黒板に溶け込むように消えてゆく。