けれど、私に背中を向けたままのレイの身体が小刻みに震えていた。
「レ……イ?」
「……ごめんね、涼香に私の事を忘れてほしくなくて。涼香を忘れたくなくて、チョークを使い切らないでほしいと思っちゃうなんて。妖精失格よね」
そんなレイに手を伸ばし、私はレイを後ろから抱きしめる。
頬には透き通る羽が触れていた。
「そんな事ない。私だって、レイの事を忘れたくない。私の事を忘れてほしくないよ」
「涼香っ」
「ふふっ、あんなに現実主義だった私が、突然現れた妖精に何の疑いもなく受け入れたこと自体、奇跡だもん。レイは私にとって、特別な存在だよ」
でも、待って。
私と出会う前、チョークを手にした人間がチョークを使いきる度に、レイは毎回眠りについていたのかもしれない。
けれど。
あの、10年後のレイは?
私が出会ったレイは、私の事を覚えていた。
27歳の姿をした私の中身が、17歳の私だったことに気づいていた。
それは、どう説明するの?
半分は幻想だと言われたけど、どれが本当で、どれが幻想なのかなんて分からない。
「レイ、私10年後のあなたと会った。あの時のレイは、確かに私だとすぐに分かってた。それって、幻想じゃないよね? きっと、レイは私の事を忘れずにいたってことだよね?」