たくさんのしがらみに囚われていた俺の心は、結局しずの背中を追いかけることを諦めた。


音のない世界。


走り去るしずの足音も、最後に何を口走っていたのかも、どんな声だったのかもわからない。


まるでこの世界から自分だけが切り離されたような感覚に陥って、深い闇に捉われそうになる。



ーーポン



呆然と立ち尽くしていた俺の肩に、力強くゴツッとした手が乗せられた。


ハッとして一気に現実に引き戻される。


振り返ると、ぎこちなく微笑んだ大雅が片手を挙げて俺に挨拶して来た。



「久しぶりだな」



きっと大雅はそんな風に言ったんだと思う。


唇の動きからそう読み取ることが出来た。


大雅も俺のことを気遣って、唇の動きを大きくわかりやすくしてくれている。


本当に良い奴だ。


だからこそ、嫌われることを恐れて距離を置いて来た。



「久しぶり。さっき、しずが走って行ったけど……」


「ああ、ちょっとケンカしてな。あいつ、気ぃ強いから」



ケンカ……。


大雅としずはケンカするような仲なのかよ。


離れていたこの1年で、2人の関係がどう変わったのか俺は知らない。