「瞬一のスマホのメモにあるかもしれません」
彼は思いついた歌詞の断片をスマホのメモ機能を利用して、よくそこに書き留めていた。
作りかけの曲は頼めば聴かせてくれたのに、そこに書かれているであろう言葉だけは、恥ずかしいから、といって結局一度も見せてくれなかった。
彼のスマホのロックは私の指紋でも解除出来るように設定されていたから、彼が目を離した隙に見ることは出来たけれど、彼が嫌がっているのを裏切ってまで見ようとは思わなかった。
彼もそれが分かっていたから、私がふざけて彼のスマホに指紋を登録しても怒らなかったのだろう。
彼のスマホは彼が亡くなった後、しばらくして彼のお母さんが解約してくれたのだが、本体は私に渡してくれた。
しかしもらってから二週間は経つけれど、メモ機能だけは怖くて開けなかった。
もう中身を見たって彼は怒らないだろうけど、きっと生々しいくらいに彼がそこにいて、まだ今の精神状態では耐えられそうにないからだ。
でもそんなことを言っていたら、いつまで経っても見られないだろうということに気づき始めてもいた。