「もしかして、最後の歌詞、ですか?」


彼が生前、どうしても『For You』の最後の歌詞が決められないと悩んでいた。

彼はいつもそうやって歌詞に悩んだ時は私に相談してくれていたのだけれど、『For You』は優梨花への感謝の気持ちも込められているから自分の言葉で表現したい、と言って必死にひとりで考えていた。


でもそれは生前といっても病気が発覚する前のことで、発覚したことでCD発売の話も全て一旦ストップしたから彼と『For You』について話すことは無くなっていた。


「ご存知でしたか」


「彼から悩んでいる、という話は聞いていたので……」


楠木さんはかけている眼鏡を押し上げた。

住友さんは事前にその事を知っていたのであろう、静かに楠木さんと私のやり取りを見守っている。


住友さんは前に電話で、こちらとしてはCDを出さない理由がない、と言っていた。

社としては、発売に関して前向きなはずである。


最後の歌詞が決まらず録音出来ていない状態で、曲として不自然ではないのだろうか?

そんな状態で発売することは可能なのだろうか?



楠木さんは私の疑問を汲み取ったかのように、すぐに答えをくれる。