『僕としても「For You」は本当に良い作品で、なるべく沢山の人の耳に届いて欲しいと思っています』
住友さんの話は彼からよく聞いていたが、顔を合わせたことがあるのは数回程度だ。
会っても挨拶をしたくらいで、彼の音楽について話したことは無かった。
彼から住友さんには良くしてもらっているということは聞いていたけれど、こうして直接彼の音楽を褒めているのを聞くと、何だかくすぐったくて胸が熱くなる。
私としても、彼のCDを出さない理由はない。
メジャーデビューをすれば今より確実に沢山の人に聴いてもらえるようになる。
ほとんどの人が知らない中で私は知っている、この優越感も捨てがたいけれど、彼ならCDが発売されることを望むに違いない。
大丈夫。
私には録音の中の彼がいる。
この世で私しか聴かない、聴けない音源。
それで充分だ。
充分すぎる。
「是非お願いします。
私もみんなに聴いて欲しいし、……何よりきっと彼が望むから」
私には珍しく、さらりと出てきた言葉をそのまま言うと、住友さんのくすりと笑う声が聞こえた。
何かおかしな事を言っただろうか。
少し戸惑ってしまう。
住友さんは穏やかな話し方のまま、答えを教えてくれた。
『すいません。
瞬一くんからよく惚気話は聞いてたんですけど、本当に聞いてた通りの人だったから』
「えぇっ!?」
惚気話……!?
彼と住友さんが親しくしていて、良くふたりで飲みに行ったりしていたのは知っていたけれど、そんな話までしていたなんて!
何を話したんだろう……!
どんな風に話したんだろう……!
住友さんはそれには笑って答えてくれず、CD発売に関してどんどん話を進められる。
決して親しくはない住友さんにそんな対応をされてしまうと、あまり食い下がって尋ねることはできない。
もう少し詳しい話がしたいということで、私が一回レコード会社に行くという約束をすると電話が切れた。
彼のことだからきっと私の恥ずかしいエピソードを面白可笑しく話しているに違いない。
悶々とした気持ちのまま、今はもう日課となって朝起きれば無意識にやってしまう、彼の録音を聴く準備を始めた。
今日はどんな歌を聴かせてくれるのだろう。