『昨日、関係者で会議があって……瞬一くんのCDをやっぱり発売しようという話が持ち上がったんです』
「えっ……」
彼はメジャーデビューに際して、ミニアルバムを発売することになっていた。
一般的にメジャーデビューはシングル発売であることが多い。
しかし彼はインディーズ時代が長かったこともあって持ち曲が多かったから、それらをまとめたミニアルバムを出すことになったのだ。
そのメジャーデビューミニアルバムのレコーディングはほとんど終わっていた。
発売日も決まっていてそれに向けて着実に準備されていたのだが、彼の病気の発覚で発売は延期になっていた。
『こちらとしては出さない意味はないという結論になりました。
そこで優梨花さんのご意思を確認しようということになり、ご連絡させて頂きました』
もし亡くなるようなことがあれば、俺の著作物に対して発生する全ての権利、利益を優梨花に譲渡したい。
彼は生前、住友さんにこのように伝えていたらしい。
そんな相談をしていたことすら全然知らなかった。
きっと彼が死ぬ仮定の話を、私が極度に嫌ったからだ。
彼はそれを知っていたから私に何も言わなかったのだろう。
『せっかく作ったCDをお蔵入りさせてしまうのは勿体ないと考えていて……。
それを抜きにしても「For You」の評価は社内では高いです』
「For You」というのはミニアルバムの題名だ。
あなたへ、そのタイトルは、彼がいつも支えてくれている人たちへの感謝の気持ちを込めた贈り物という意味で名付けられた。
そして彼は、聴いてくれた人が大切な人へ感謝を伝える後押しになればいいとも言っていた。
彼を売り出す上で、私の存在は世間には秘密だった。
女性ファンが離れることを危惧したのだろう。
見てくれもそこそこ良かった彼は、ファンのほとんどが女性だった。
インタビューなどでミニアルバムのタイトルについて尋ねられたときに、彼は家族やスタッフやファンの皆様への感謝だと答えていた。
でも、ふたりきりのときに彼はこっそり自分の「You」の筆頭は私だと教えてくれた。