彼の深呼吸する音の後に、彼のからっとした声が聞こえる。


『……あーこんなはずじゃ無かったのに!

もっと楽しく話して終わろうと思ってたのに!』


へへっという照れ笑いが聞こえるとともに、彼が両頬の涙を雑に拭っている姿が想像出来た。


『とにかくね!言いたかったことは!

優梨花に強制するつもりはないし!

俺のエゴなんだろうけど!』


私だって、濡れた頬を手で拭う。


『優梨花の人生で、俺といたことがもしプラスになってたんなら、そのプラスをこの先も忘れないでいて欲しいんだ』


彼がくれたもの。

それはとてつもないくらい沢山ある。


彼といたこと、過ごした日々、もとい彼という存在そのものが私にとってプラスでしかなかった。


彼に出逢ったお陰で、友達が出来るようになった。

周りに馴染めるようになった。


思っていたよりも周りの人たちは優しかったし、私という存在を尊重してくれた。

お世辞にも社交的とは言えないけれど、ゼロだった社交力が3くらいにはなった。



彼に出逢ったお陰で、辛いことを少しは吐き出せるようになった。

ずっと胸の奥底に溜め込んでいたものを、溜め込まなければいけないと思っていたものを、外に出しても良いことを知った。



彼と出逢ったお陰で、食べ物が美味しくなった。

今まで何が食べたいとか思ったことが無かったのに、好きな食べ物が出来た。


彼と行ったライブハウス近くのラーメン屋さんには、私が彼にお願いして数え切れないほど行った。

また行きたいの、と呆れながらも笑って一緒に行ってくれた。