『うーんとね、俺が言いたいのはね、

何て言ったら伝わるのか分かんないんだけど……


俺がいなくなったことで、優梨花の生活が……


悪くなって欲しくないんだ』


ぽつりぽつりゆっくりと、彼の言葉が紡がれる。


『俺のエゴだって言われたらそれまでなんだけど……』


彼が言葉を探しているような、僅かな間があった。

私は息を潜めて彼の言葉を待つ。


『……優梨花が俺と過ごしたことで、優梨花の中の何かが良くなってくれたらいいなって。

まあ、実際良くなってなかったとしても、』


彼の声が急速に高ぶって湿り始める。


『心の中で、俺といて良かったって、俺といたことでこういうことが変わったなって、』


湿って、震える。

彼は感情が豊か過ぎるあまり、感情の振れ幅が大きくて、速い。


『そんな風に思ってくれたら……』


彼が意を決したように、ばっと大きく息を吸い込むのが聞こえた。


『このために、優梨花に出会って、世界を少し良くするために生まれてきたんじゃないかって思えるんだ

……早く終わっちゃう人生でもね』


何とか震えを堪えて、絞り出された彼の声に、心臓の奥の方がぎゅっと縮こまるのを感じた。


それと同時に、私の右目から涙が溢れる。

泣いているんだ、という自覚は遅れてやって来た。


生前ずっと気丈に振る舞っていた彼が、こんな風に思っていたなんて知らなかった。

こんな風に、少し自嘲的で悲しみをたくさん乗せた彼の切ない声を、私はほとんど聞いたことがなかった。


心がぐらぐらと揺さぶられて、ぐちゃぐちゃになる。

普通なら私は彼と違って、感情の起伏が小さいはずなのに、彼の心の変化にだけはいつも痛いほど共鳴してしまうのだった。