そんな私の気分を上手に乗せて、彼はよく家の外に連れ出してくれた。

私が行きたくなるようなイベントを見つけてきてくれたり、「俺が優梨花と出かけたいから」と彼のお願いみたいに言ってくれることもあった。


そう言って連れ出してくれた場所に行って後悔したことは一度も無かったし、いつも楽しい気持ちになって帰っていた。


『優梨花が行きたいって思ったらで良いんだ。

俺は優梨花に何も強制するつもりはない』


生前、彼はいつも言っていたし、実際そう行動していた。

私を無理に外へ連れ出そうとしたことは一度も無かった。


ただ、彼の誘うタイミングとプレゼンがとてつもなく上手なのだ。


『だから、あくまで参考程度でいいんだけど……

うーん、例えば……


お友達の美穂さんに会うのはどう?』


ほら、提案するときの、すっごく魅力的な秘密を教えるような彼の声。


美穂というのは会社の同僚で、入社以来仲良くしている私の親友とも呼べる人だ。

今は部署も同じで、昼ごはんはほぼ毎日一緒に食べるし、仕事終わりに二人で飲みに行くこともあった。


しかし彼の入院で私が休職してしまってからは、ほとんど顔を合わせていないし、連絡を取ることも極端に少なくなっていた。


彼のお葬式には来てくれたけれど、そのときは私が喪主で忙しかったこともあってほとんど話せなかった。


しっかり会話出来たのは彼のお見舞いに来てくれたときだったから、もう一ヶ月はまともに話していない。



確かに……美穂に会うという発想は無かった。



……久しぶりに会いたい、かもしれない。