しばらく微笑ましい気持ちで彼を見ていると、彼が突然、あ!そうだ!と何かを思い出したように声を上げた。


「ん?」


私が首を傾げると、彼はにんまりと擬態がつきそうな笑顔で私の顔を覗き込んでくる。

視線を合わせるのが苦手な私はとっさに目を背けたが、彼はそんなことお構い無しに続けた。


「よし、行こう!」


どこに、と聞く暇すら与えずに、彼はまた私の手を取ると走り出した。

今度は手首じゃなくて、手のひらだ。


彼の手の温もりが直に伝わってくる。

直接肌が触れるだけでこんなにもドキドキするものなのか……


彼の様子を窺うが、尻尾を振った子犬みたいなまま、ドキドキしているような様子はない。


今は興奮して気付いていないだけなのか、日頃から天然でこういうことをさらりとやってしまうのか……

うう、後者なら今後心臓が保つとは思えない。



校舎内に入って、廊下をどんどん突き進んでいく。


手を繋いで廊下を駆け抜けていく男女。
注目を集めないはずがない。

それでも、そんなことも気にならないくらい、私には彼と手を繋いでいることの方が大問題だった。

あまりにも心臓の鼓動が大きくて、身体の先まで脈打っているようだ。


手の先から彼にこのドキドキが伝わりそうで、恥ずかしい。

早く離してしまいたい!


とそこへ、まるでシンデレラの零時の鐘のように、チャイムが鳴った。


キーンコーンカーンコーン…


始業のチャイムだ。


そうだ!今は朝で、まだ授業前だった!

早く教室に戻らないと!遅刻になってしまう!


しかし、我に返った私の手を引く彼は、一向に足を止めようとしない。

瞬く間に階段を駆け上がっていき、私もそれに合わせて引っ張られていく。