彼のお母さんは病室を出て行った。


彼のお母さんもまた、彼と同じように強い人だ。


彼が死んでとても悲しいはずなのに、お葬式の日取りを決めたり、忙しく働いている。

今も多くの親戚や知り合いに、お葬式についての電話を掛けているのだろう。


本当は、私もそこに加わらなければならないはずなのだ。

だが、文句一つ言わずに私を気遣いに来てくれる。



彼に似ていると思った。



彼の優しさに触れられるのなら、他には何もいらないのに。

私から彼を奪ったら、他には何も残らないのに。


どうして私から彼を奪ってしまうの。



何度問うたか分からない。

この世に神様というのがいるのなら、きっと残酷だ。


何も人間のことを分かっていない。

悪いことをした人がもっといるはずだ。


どうして、平凡に健全に生きてきた私たちが、苦しめられなければならないのだろう。



この先どうやって生きていけばいいか分からない。

どうやったら生きていけるのか分からない。


彼だけが私の生き甲斐だった。


彼がいたから今まで生きて来れたのだ。

どんなにつらいことがあっても、彼の声を聴けば癒され、安心した。





彼のいない世の中なんて、何の価値も無い。



彼のいない世界なんて生きたくない。