「じゃあ、付き合ってくれる?」


もう一度大きく頷いた。こんなときに、緊張して頷くことしかできない自分が情けない。

でも、今の私にはこれが精一杯だ。


顔を上げて、彼を見上げる。


このときの彼の表情の変化は、スローモーションみたいに脳裏に焼き付いている。

彼のまさに弾けるような嬉しそうな笑顔は、きっと一生忘れないと思う。


「ほんとに!?」


子犬が尻尾をブンブン振っているような感じ。

既視感があるなと思ったら、私がライブにまた来たいと言ったときと似ているなと思い出した。


彼は喜びが抑えきれないのか、やったー!と何度も叫びながら走り回った。

本当に感情表現が豊かな人だ。


あまりに嬉しそうにしているから、こちらまで嬉しくなって頰の筋肉が解けるのが分かった。

昨晩悩んで寝られなかったのが嘘のように、晴れやかな気持ちになった。


「あー!照れたー!」


彼はそう言って前髪ごとおでこを右手で抑える仕草をしている。

一見落ち込んでいるようにも見えるその仕草は、彼の照れているときの仕草らしかった。


知らない彼をひとつずつ知っていく。楽しい。

パズルのピースがはまっていくようだ。


緊張から解放されたのか、彼はその照れた仕草のまま、へなへなと体育館の壁にもたれかかった。

そうして、あー緊張した、やら、照れるーなどと独り言を発している。


嬉しさを爆発させて走り回ったかと思ったら、次は照れて顔を隠して脱力する。

表情があまりにころころ変わるから面白くて、いつまでも見ていられそうだ。


彼の頭の中の処理は、きっと私の何倍も速いのだろう。