病気が発覚して余命宣告を受けるまで、彼はやっと掴んだメジャーデビューに向けて、粉々になりそうなくらい働いていた。

辛そうな顔一つ見せずに、スタッフにもファンにも、そして私にも、たくさんの笑顔を振りまいていた。


何それ。

前から知ってたけど、あなたはやっぱり、


「強すぎるよ」


込み上げる感情に涙がまたあふれそうになる。

が、今度はぐっと堪えた。


さっき彼の分まで頑張って生きるって、たくさん笑って幸せになるって決めたんだから。

こんなくよくよ泣いてばっかりいられない。


さっきまでにたくさん流した涙で、ぐちゃぐちゃになった顔を擦って涙を拭う。

しっかり頑張れ。

そんな想いを込めて、私は自分の頬を両手で軽く叩いた。


彼も言ってくれた。優梨花は強くなったと。

私強くなったよ、あなたに出会って。だから1人でも生きていけるよ。


――1人、それは言い過ぎだね。

この録音機さえあれば生きていけるよ。


あなたに私の進む道を照らしてもらわなくても、自分で一歩一歩確実に。

だから――


「私が転ばないように見守っていてね」


私がそう録音機の中の彼にお願いすると、


ホントに強くなったなぁ


そう言って笑う彼の声がイヤホンから聞こえた気がした。