目覚めた時には朝になっていた。橋に置いたキャンバスは片付けられており、送葉の姿はなくなっている。目の前にあるのは何の変哲もないただの鉄橋。
頭は依然として痛く、重いが、初めに比べれば随分と良くなっている。運転が出来ないほどではなかった。送葉に関しての記憶はもう少しずつ消え始めている。僕にはその前にやっておかなければならないことがある。大事なことを忘れる前にそれだけはやっておかなければいけない。
エンジンを掛け帰路に着き、何度か休憩を挟み、昼頃にアパートに帰る。
帰って一息つくこともなく僕はゴミ袋を手に取る。
「さて」
僕が送葉を完全に忘れる前にやらなければいけないことは、送葉を想わせるあらゆるものを捨てることだ。
棚の上にある送葉とのツーショット写真。送葉から貰ったブックカバー。机の中にある送葉からの手紙、葉書。もちろん送葉からのメールも、カーナビの履歴も全て、僕の生活空間にある全ての送葉を一度手放す。
最後にもう一度送葉との思い出に浸りながら一つ一つ丁寧にゴミ袋に物を詰めていく。手放したくない物ほど手放さなければいけないというのは僕の性格上きついものがあるが、それも初めから始めるためには仕方のないことだ。
そんなに多くないと思っていたのに、蓋を開けてみればいっぱいになったゴミ袋が三つも玄関先に並んでいた。結局、部屋に残ったのはほとんど生活必需品だけになってしまった。
でも、それでいいのだ。自分ができる万全を尽くした方がいい。
これくらいしなければ、運命の存在を確認することはできない。彼女の探求心を満足させることはできない。最初から始めることはできない。
僕はこれから出会う大切な人のために、大切なものを全て手放した。
それから数日の間に僕の頭痛は解消されていき、それと同時に、自覚はないが記憶もなくなっていった。
そして時は流れ、新たな春を迎える。
頭は依然として痛く、重いが、初めに比べれば随分と良くなっている。運転が出来ないほどではなかった。送葉に関しての記憶はもう少しずつ消え始めている。僕にはその前にやっておかなければならないことがある。大事なことを忘れる前にそれだけはやっておかなければいけない。
エンジンを掛け帰路に着き、何度か休憩を挟み、昼頃にアパートに帰る。
帰って一息つくこともなく僕はゴミ袋を手に取る。
「さて」
僕が送葉を完全に忘れる前にやらなければいけないことは、送葉を想わせるあらゆるものを捨てることだ。
棚の上にある送葉とのツーショット写真。送葉から貰ったブックカバー。机の中にある送葉からの手紙、葉書。もちろん送葉からのメールも、カーナビの履歴も全て、僕の生活空間にある全ての送葉を一度手放す。
最後にもう一度送葉との思い出に浸りながら一つ一つ丁寧にゴミ袋に物を詰めていく。手放したくない物ほど手放さなければいけないというのは僕の性格上きついものがあるが、それも初めから始めるためには仕方のないことだ。
そんなに多くないと思っていたのに、蓋を開けてみればいっぱいになったゴミ袋が三つも玄関先に並んでいた。結局、部屋に残ったのはほとんど生活必需品だけになってしまった。
でも、それでいいのだ。自分ができる万全を尽くした方がいい。
これくらいしなければ、運命の存在を確認することはできない。彼女の探求心を満足させることはできない。最初から始めることはできない。
僕はこれから出会う大切な人のために、大切なものを全て手放した。
それから数日の間に僕の頭痛は解消されていき、それと同時に、自覚はないが記憶もなくなっていった。
そして時は流れ、新たな春を迎える。