そう言って、圭汰は私から離れて、自分の携帯電話を手にする。
初めて聞いた名前だったけれど、すぐにそれが圭汰の奥さんだと分かった。
「・・もしもし?えっ、今?・・・うん、大丈夫だよ」
圭汰は運転席に座り直して、笑顔で電話をし始める。
私も体勢を整えたが、圭汰のその表情に、胸が痛んだ。
私は、圭汰の一番じゃない。
それはずっと前から分かっていることだけれど、やはり、こんな風に思い知らされるのはとても辛い。
高鳴っていた胸も、驚くぐらい、すうっと、冷めていった。
そしてその代わりに、悲しみが無数の針となって、心臓を突き刺していく。
「はいはーい、じゃあな。・・・ごめん、冬穂」
電話を終えた圭汰が、ポケットに携帯電話をしまいながらこちらを向いた。
私は圭汰と目を合わせず、少し俯く。
大丈夫だよ、気にしていない。
ただそれだけの言葉だけど、ちゃんと口に出せない。