「りょうかい。じゃあ、近くのレストランでも行くか」
「うんっ」
私が頷くと、圭汰は右手を差し出す。
それが、手を繋ごう、という意味だということは、すぐに分かった。
けれど、私は手を伸ばしかけて、静止させる。
心の奥に、小さな躊躇いがあった。
圭汰を選んだのは私なのに、まだ、灯の顔が浮かんでくる。
灯の意地悪な顔、楽しそうに笑う顔、そして、最後に見た、とても悲しそうな顔。
その全てが、どうしようもなく私の胸を締めつけるから、圭汰の手を握れない。
今頃、灯はどうしているのだろう。
どんな気持ちなのだろう。
私は灯を、どれほど傷つけただろうか。
「・・・冬穂?」
「えっ?・・・あっ、うん」
そんな風に考えていたが、圭汰に声を掛けられたことで我に返り、すぐに圭汰の手に自分の手を乗せた。
「よしっ、じゃあ、行くか」
「う、うんっ」