彼女は驚いた顔をしていた。


ドアが開いたことに驚いたのか
俺が弾いてたことに驚いたのか


わからないけど
おそらく、前者だろう。


その後、俺の顔を見て
もう一度驚いた顔をしたから。


そして、彼女は言葉を発した。


「私の心を助けてくれてたのは
あなただったのね…。
ありがとう。ありがとう。」


と何度もありがとうを繰り返しながら
泣き崩れた。


いきなり事に俺は驚いたが
何よりもいつも笑ってた彼女が


涙を流してることに一番驚いた。
俺はどうしたらいいかわからず


慰めるように彼女と目線が合う位置まで
かがんでそっと頭を撫でた。


彼女は泣きながら俺の方を見ると
すぐに涙は止まって


かわりに再び驚いた顔に戻り
俺の前髪をあげた。


俺はしまったと思った。
とっさに離れようとしたが


彼女は俺の手を強くつかんで


「綺麗な瞳!
この前髪長いのもったいないよ!」


って言った。
俺は何故かわからないけど


そのままボーッとしてしまった。
けれどすぐに意識を戻して


彼女から離れた。そして、
「そんな事を言うのは君だけだよ。
他はこれを見て気持ち悪いと思うよ。」


と素っ気なく言って
「君は俺なんかと関わる人じゃない
だから、もうここには来ない方がいい。」


と付け足した。
そして、俺は彼女の顔を見ずに


ピアノの横にあったカバンを持って
旧校舎を出た。