「そんな事があったんですか……?」


「だからって、俺が男として葉月ちゃんに最低な事をしたことに変わりはないから、気にしないで」


そう言って力なく微笑んでみせる渚さん。

そんな姿をみて、どうしようもなく哀しい気持ちになった。

渚さんが私にしたことは許せない。

でも、わけもなくそんな事をしたんじゃないんだってわかって、心のどこかで安堵しているような自分がいた気がした。



「……私、渚さんにされたことを、許そうとか、そういうつもりはないです。

でも、私渚さんの事嫌いになれなかったんです。あんなことされた時も、お金盗むように脅された時も、怖かったけど嫌いにはなれなかった。

それは、優しかった頃の渚さんを知っていたからだと思います。

大好きだったころの渚さんが忘れられなくて、いつまでも本気で憎めなかった。

だって、ほんとによくしてもらっていたから。


だから……私が起訴しなかったのは、そういうことです」