中三では同じクラスになってますます噂されてたし、付き合ったとか別れたとか周りで色々ある時期だったけど、親友の私達にはそんなの関係なかった。


好きな子の話はあれ以来シゲは一度もしなかったから、私もあえて話題にしなかった。





美術室は、ずっと私たちの居場所で。


合同制作もあったし、春ちゃん所有の画集を一緒に眺めたり、グラウンドに出て運動部員たちが走る姿をスケッチしたり。


暇な日は美術室の黒板いっぱいに落書きした。


「キリン描けって言ったんだけど。なんだ、その首長い馬」

「どこが馬? 今日は上手く描けたでしょ!」

「まあ、結衣にしてはマシか」


と言いながら隣にシゲが描いたキリンは、記憶だけで描いたとは思えない程正確にキリンだった。


動物園で何度かスケッチしたことがあるんだって。そんなのずるい。


「目の前で見て描けばお前でも描けるようになるよ。今度行こうぜ、上野」


ニヤリと笑って誘ってくる。こんなだから、みんなに私を好きなんじゃないかって言われるんだよ。


バカじゃないの。そんなつもりないくせに。


紛らわしいんだよ。




小さめのスケッチブックを持って、二人で動物園に何度か行った。ついでに上野の美術館や博物館も回った。


春ちゃんは先生だからか、誘ってもなかなか一緒に行ってくれなかった。


「デートに着いていくほど野暮じゃないよ、僕は」

「デートじゃないってば。美術部の活動!」

「結衣はそう思っててもねえ、シゲにとっては邪魔だろうしね」


そういう発言は春ちゃんもみんなと一緒だった。先生のくせに、教え子に恋愛を焚き付けていいんだろうか。人の気も知らないで。



それでもしつこく誘い続けて、一度だけ、夏休み中に水族館へ三人で行った。嬉しくて楽しくて、はしゃぎまくってシゲにものすごく嫌がられたのは覚えてる。